仕事を終えたら5分で露天温泉、嬉野で見つけた私らしい生き方

新原 千英さん
東京都→嬉野市
- 移住種別Iターン
- 移住の時期2024年
- お仕事会社員 (メディア運用支援業務)
- 休日の過ごし方 読書、ファミレス
佐賀県西部にある嬉野市。嬉野温泉は「日本三大美肌の湯」として広く知られています。日本有数の温泉街として知られるこのエリアに、東京生まれ、東京育ちの新原さんが単身、移住してきました。
働いている職場は温泉旅館『和多屋別荘』のサテライトオフィススペースです。仕事を終えたら5分で露天風呂。こんな特別な環境に暮らす新原さんの日常を教えてもらいました。
「窮屈だった住環境を変えたくて、移住を検討しはじめました」
-- まずは移住のきっかけを教えてください。
新原千英さん (以下、新原):東京で一人暮らししていた部屋が、ワンルームで窮屈なところだったんですね。
-- 窮屈なところ?
新原:狭くて窓の外も隣のビルの壁、とにかく窮屈で圧迫感のある部屋だったんですね。会社が近いから選ぶ余地もなくそこに住んでいたのですが、家賃は高くそれを払い続けるメリットが感じられなくなりました。
-- それはちょっと、ですね。
新原:満員電車が嫌だったというのもあります。もともとは東京の多摩地域出身で、大学は兵庫県でした。だからもう、東京の都会にこだわらなくてもいいかな、外に出てみようかなと思って、有楽町のふるさと回帰支援センターへ相談に行ってみました。
-- ふるさと回帰支援センターには、全国都道府県の相談窓口があります。その中で、佐賀を見つけたのはどうしてでしょうか。
新原:相談予約をする時に1回で3つの窓口を選べたんですね。長崎県が第一候補で、熊本県が第二候補で、もうひとつが佐賀県。
-- それぞれ選んだ理由を教えてもらっていいですか。
新原:旅行が好きで九州はいろいろ回ったことがあったんですね。長崎は夜景が綺麗だし、生活しやすいかなと思って。熊本は阿蘇山に思い入れがあって、星空がとても綺麗で大自然を感じました。日常生活の中でそういう綺麗な景色を見られたらいいなという思いはありましたね。
-- 第3位の佐賀はどういう印象だったでしょうか。
新原:ちょうど長崎にも熊本にも行くのに近いからいいかなって。福岡くらいの都会だと東京とあんまり変わらないんじゃないかなと思っていて、かと言ってあんまり九州も下の方だと交通の便に心配がありました。
-- 佐賀は都会すぎない点も、位置的にも、ちょうどよかったのですね。実際に、相談窓口で話を聞いてみてどうでしたか。
新原:どの相談窓口の方もとても親切だったんですけど、一番、佐賀県のサポートデスクの方が生活を想像しやすくお話をしてくれました。どういう人が暮らしていて、誰々さんという人がどういう取り組みをしていてとか。
-- 具体性があったんですね。それぞれ、どれくらい話しましたか。
新原:ひとつの県で10分か20分くらいです。
-- それで佐賀に決められたんですね。
新原:もうその時に会社もご紹介いただいて。和多屋別荘っていう温泉宿の中に、オフィススペースを借りているメディア企業さんがありますよって。
(窓の外は温泉宿の絶景。仕事につかれたら振り向いて、季節の移ろいを感じます。)
「いいと思ってないことをする。そういう仕事をもう続けられなかった」
-- どんなお仕事の会社ですか。
新原:幅広いお仕事をしている会社なんですが、私はオウンドメディアの運営、海外ドラマの専門サイトで紹介記事を書いたりしています。もともと本を読むのが好きで、子どもの頃は1日20冊借りて、次の日にそれを全部返してまた20冊借りて。そういう子どもでした。それでふるさと回帰支援センターの方に文章を書く仕事がしたいとお伝えして、ちょうどそういう人を探している会社が1つあるよということでご紹介いただいたのが今のお仕事です。
-- 前職はなんでしたか。
新原:営業職です。扱っている商材が、私は本当にいいとは思ってないことだったりして、信念と言ったらおおげさですけど、ちょっとお客さまに申し訳ない気持ちでおすすめしているような。なんか罪悪感があってメンタルがキツかったんです。
-- 仕事面でも環境を変えたかったんですね。新しい仕事で心持ちは変わりましたか。
新原:文章を書くというのは、毎日コツコツと作業を進めていく感じ。いい意味で刺激が強すぎなくて、落ち着いて働けている感があって、今の方が自分にあっているかなと思います。
-- 住む環境としてはどうでしょうか。
新原:嬉野市は観光地だからか、なんと言うんでしょうか。ドライだけど、本質は優しくて温かい感じ。ちょっとそのへんを歩いていても近所の方から、すごいよく話しかけてもらって。どこから来たの、ひとり暮らし大変だねとか。コンビニの店員さんも親切で温かく、絶対におはしをつけ忘れないし、おにぎりまで温めようとしてくれます。
-- 自然や景色はどうでしょうか。窓の外は山、ですよね。
新原:夏は田んぼが青くて、秋は紅葉があって、冬は雪が白くて、季節の移ろいを感じるのはすごくいいなと思います。東京では、雪を見て冬を感じるというより、電車が遅延したのを見て、あ、冬だって感じていました。佐賀の雪はすごく綺麗に舞っていたので、たくさん写真を撮りました。絵本みたいな景色というか、なんか、東京だとちょっと嫌なものだった雪がこっちだと楽しかったです。
-- 休みの日はどう過ごしていますか。
新原:基本的には家でのんびりですね。午前中はお菓子を作って、午後はそれをつまみながら本を読んだり、ウェブを見たり。
-- どんな本を読まれますか。
新原:ちょっと恥ずかしくてあんまり言いたくないんですけど、最近読んでいたのは『なぜ美人ばかりが得をするのか』とか。認知心理学の観点から美を読み解くみたいな。ウェブは料理のレシピを紹介しているところをよく見ます。だらだらするのに飽きたらファミレスに行って、環境を変えて本を読みます。あと、旅行が好きだったので長崎にも行きますし、博多にも行きます。高速バスがあって、思っていたより交通の便は悪くなかったですね。
(東京時代は定時が18時。それでも何かと残業はあり、20時に終わるのもまれでした。)
「無理のない、ちょうどいい暮らしを見つけることができました」
-- 平日、お仕事帰りの過ごし方を教えてください。
新原:和多屋別荘にオフィスがある人はここの大浴場と露天風呂に入れるので、仕事終わりによく使わせていただいています。仕事が終わってパソコンを閉じたら5分後には温泉に入って、そのまますっぴんで自宅に歩いて帰る途中にコンビニに寄って、19時すぎには家でお酒を飲んでいます。
-- えぇ、いいなぁ、最高の平日ですね。
新原:東京と違って、都市ガスじゃなくてプロパンガスだからガス代が高くつくよと聞いていたんですけど、温泉があるから家でお風呂を沸かさなくてもいいので全然大丈夫でした。あと、こっちに来たら料理もするようになりましたね。東京の自宅はキッチンも狭くてまな板を置くスペースもなかったので。
-- 窮屈って言ってましたもんね。
新原:料理って、時間と場所があるからできることだなって思います。料理して、食べて、片付けて、それでまだ20時半くらいなので。東京時代と比べて時間がたくさんあります。
-- もともとご縁のなかった佐賀県に来て、お友だちはできましたか。
新原:入社したばかりの時は、オフィスに4人いたんです。年齢の近い女性と仕事終わりにバーに寄ったりとかしてたんですけど、ちょっといなくなってしまって。
-- さみしいですか。
新原:でも今は1人でもいいかなと。1人の生活も優しく包んでくれるような町ですから。なんて言うんですかね、山に囲まれている小さな町っていう安心感。徒歩20分圏内にスーパーもコンビニもダイソーも図書館もコインランドリーも歯医者さんも病院もあって。商店街にはお肉屋さんも八百屋さんもお惣菜屋さんもあって。声をかけてくださる方もいて。無駄もなく、自然に生活できるスペースがあるのがいいんじゃないかなって。
-- コンパクトで無理のない暮らしが、新原さんには合ってたんですね。ご家族と遠く離れた九州に暮らすことは、どう考えていらっしゃいますか。
新原:普通に仲がよくて一緒に旅行へも行くんですけど、近くにいるとなんか甘えちゃうじゃないですか。姉に言われたのが、私は両親に対して営業をしている、みたいな。育ててもらった恩もあるし、無意識にちょっと頑張っちゃってたんですね。
-- 物理的に距離が離れることで。
新原:ちょうどいい距離感になったように感じます。
-- 最後にですね、せっかくの和多屋別荘。温泉宿がオフィスになるという職場環境はすごく貴重で、うらやましいわけです。そこで働いている感想、いいところを教えてください。
新原:温泉宿ってみなさんのんびり休みに来てますもんね。お客さんが多い時でも、わーっと急いでいたりはしません。東京だとみんな、スーツを着て、お化粧して、ちゃんとしている、ちゃんとしなきゃいけないように見えますから、ちょっと息が詰まっちゃう感じがあったと思うんです。でも今、和多屋別荘の中でふと顔をあげると、和やかな顔をして歩いていますから、気持ち的に追い立てられることはなくなったと思います。
-- 宿自体も、すみずみまで配慮が行き届いて美しい状態が保たれていますもんね。
新原:ちょっと休憩したいなという時に、外の景色を見るのも楽しみです。オフィスの下に川が流れていて、晴れた日は鳥がいっぱい集まってきて羽を乾かしているんですよ。それを見るのが好きで。
-- 自然だけど、整えられた自然というか。本来は客室からしか見られない絶景が、毎日の職場から見渡せるのは最高に贅沢ですね。
新原:普通の会社じゃできないことですし、都会では見られない景色だと思います。こういう環境の中で、自分のことを大事にしていくことが今の目標です。頑張りすぎることもなく、だらけすぎることもなく。私にとってちょうどいい暮らしを、ゆったり過ごしていきたいです。
-- 新原さんにとって、必要な余白が佐賀県嬉野市にはあったのですね。今日はありがとうございました。
(和多屋別荘の書店スペースにて。温泉上がりにお茶と読書を楽しめる、嬉野らしい施設です。)
温泉旅館がオフィスになる。
和多屋別荘の企業立地プロジェクトの紹介ページはこちら。
https://innovation-partners.jp/office/
文章:いわたてただすけ
写真:川浪勇太