ご縁がつながる古民家カフェ経営、50代からはじまりました

大町 裕也さん / のり子さん

大町 裕也さん / のり子さん

千葉県嬉野市

  • 移住種別Uターン
  • 移住の時期2022年
  • お仕事古民家カフェ D-COFFEE 経営
  • 休日の過ごし方 動画鑑賞、DIY、畑仕事、気になるところに行く。

佐賀県西部にある嬉野市。温泉で有名なこの町で、温泉街から少し離れたところにある古民家カフェを経営する大町さん夫婦を訪れました。
ほんの数年前、あの日はじめて豆を焙煎した日から人生は思いもよらぬ速度で大きく変わることになりました。おふたりが遠く移住した、嬉野でつなぐご縁のお話を聞いてみます。

「焙煎の趣味を始めたら、古民家を改装したくなりました」

-- まずはおふたりが移住を考え始めたきっかけを教えてください。

大町のり子さん (以下、のり子):きっかけは多分2020年の4月ですね。前職を辞めてコロナが流行りはじめて家でゴロゴロしていました。アマプラのドラマとかで見たいものを全部見切ってしまって、そう、見すぎて飽きちゃって。それであるとき、千葉のあるコーヒー問屋さんでコーヒーの手網焙煎機が3,000円くらいで売ってるのを見かけたので、軽い気持ちでね。

-- 購入されたんですね。

のり子:うん。みんなが寝静まった後に夜な夜なシャカシャカ生豆を回して。ああいうのはコンロが汚れちゃうし煙もモクモク出るから、男性がやると奥さんに怒られちゃうみたいなことは知っていましたけど、うちは汚すのも片付けるのも私なので誰にも文句を言われないで楽しくやってたんです。でも最初に買った手網焙煎機が小さくて、100グラムの豆を焙煎すると80グラムしか取れないんです。裕也さんとふたりで飲むと3−4回くらいであっという間になくなっちゃうんですね。回すのはつかれるのに、すぐなくなっちゃう。次に手廻の焙煎機を買ってそれを使うと1回で450グラムくらいできあがるんですよ。手廻は大変ですけど一度焙煎してしまうともう1カ月分くらいから今度は多すぎちゃって。

-- 回したくなった時に、回せなくなるんですね。

のり子:そう。人にあげるのも限度があるから、取れすぎちゃった豆をどうしようと考えた時にたまたま、ちょっとパートでも始めようかと思って家の近所にある壁紙屋さんに面接に行ったんですがそこの店舗で、棚にいろいろ売り物を置いているんですよ。

-- レンタルボックスみたいな?

のり子:そう。もしかしてコーヒー豆も売れますか?と聞いたら売れますよと言われたので置かせてもらって、そこは商店街だったので、人通りが多かったんですね。

-- 裕也さんはその頃、のり子さんのコーヒーをどう見てましたか。急に夜な夜な、ガラガラ音をさせはじめて。

大町裕也さん(以下、裕也):全然嫌じゃなかったです。その後、自宅でも豆を販売し始めたんですよ。最初は、自宅ガレージでテント張って月に1回。そして1階の和室を改造して、昔のタバコ屋さんみたいな対面式で販売しました。

-- 改造を、裕也さんが?

裕也:私がDIYしました。息子のベッドと学習机を改造して。

-- あれ、もともと前職は…。

裕也:東京の建築設備工事会社で32年間サラリーマンをしてました。

-- 建てる、作るということには知識があったわけですね。しかし、そこからの古民家カフェですから、ご縁というかなんというか、裕也さんの人生もコーヒーをきっかけにして大きく変わったということですよね。

裕也:サラリーマンを続けるつもりだったんだと思います。何か不満があったわけでもないです。だけどコーヒー豆を自宅販売した時にですね、あ、これかもしれないと感じて、DIYのYouTubeをよく見るようになりました。そうするとやっぱり、古民家がね。

-- やりたくなっちゃったんですね。

裕也:古民家に対する欲が出てくるんです。店を作りたいなって。

-- 調度品も雰囲気がいいですよね。昔の看板あり、ギターやウクレレもあるしオーディオも充実しています。こういうのも全部、裕也さんのご趣味ですか。

裕也:こっち来てからもらったものがほとんどです。古民家カフェを始めたら、この古民家に合うかもってことで集まってきたんですよ。

のり子:こういう昔の看板のコレクターの方がいらして、でも奥様はもう処分したい。という話だったので、じゃあうちに飾っておくからいつでも見に来れるよーみたいな。そういう風に集まったものたちですね。

(和と洋の調和した店内。裕也さんの美意識と、のり子さんの優しさを感じる空間です。)

「改装担当と農業担当、お互いに口出しはいたしません」

-- お気に入りの古民家、住むところはすぐ見つかりましたか。

裕也:僕は鹿島市(佐賀県)に18歳まで住んでいたので。

-- 鹿島市に近いところ、という線ではあったんですね。

のり子:最初はね、いまあるこの古民家から少し山の中に入った、昔のカマドが残っているような古民家を見て、ここいいなって気持ちになってたんですけどね。

-- そこが第一候補で。

のり子:第一候補を見た帰り道に、すぐそこにもう一軒の古民家があるよとこの家も見せてもらいました。その時はもう第一候補を買うつもりだったから全然頭に入ってないまま一度、千葉に帰ったんですけど。第一候補の方が頓挫しちゃって、今度は裕也さんひとりでこの家をまた見にきてもらったんですよね。そのタイミングで、どうだった?と電話で聞いたら自分で修繕できそうだよとの返事で。その時点で契約を進めました。

-- 早い。どんどん進みますね。

のり子:どんどんね、引っ越しを始めると家財道具が一杯あるわけです。子どもたちの昔の持ち物から何から。断捨離はそんなにできなかったですね。とりあえず持って行っちゃえって、嬉野まで全部持ってきました。天井裏のお部屋に開けてないダンボールが一杯あります。

-- そんなに急に進んで、ご家族の反対はありませんでしたか。

のり子:息子の方は、あっそう、みたいなもんでしたけど。でもね、私ちょうどいろいろと手放したタイミングで。子どもが普通に家を出ていたのもそうですけど、コロナがあって、前職を辞めて家でたくさん時間ができて。父が亡くなったのも、急に、急じゃないけどなんだろうな。1日で帰って来れるような手術だったんだけど脳に血栓が飛んで動けなくなったというか。人の命ってわかんないじゃないですか。だったら好きなことやった方がいいなという、そこらへんはすごく影響があります。

-- 裕也さんにとっては、念願の古民家の改装。どうでしたか。業者さんとかは入れずに全部ご自身で?

裕也:はい。水回りの、トイレとお風呂は業者さんにやってもらいました。それ以外は、セルフリノベーションですね。外の景色がいいからテーブルを低くしたいんだけど売ってないんですよ、低いテーブル。

-- なんでも自作されてきたんですね。

裕也:もともとはいま座ってもらっているそこからトイレが見えたんですね。それも見えないようにレイアウト設計した。あとは照明もですね。夜、外からこの古民家を見て、ここにこういう風に照明をつけたい、照明計画もあわせてレイアウトを考えたんですね。

-- 裕也さんのこだわりに対して、のり子さんは口を出したりはされるんですか。

のり子:私はもう、そこにひとこと口出ししたら大騒ぎになるので言わない言わない。私は農業担当なんです。

-- おうちの前の畑は、おふたりのものですか。

のり子:そう、うちの畑です。買いました。前は田んぼだったのね。それをとりあえず土壌改良しようと思っていろいろ試行錯誤してます。

-- 本格的ですね。

のり子:今年からちゃんと、本格的にやろうとしてます。

-- 何を育てるんですか。

のり子:背の高い草がいっぱい生えてるでしょ。あれは豆科の植物なんですよ。茂っていた時にはバッタや昆虫がたくさんいました。虫の住処になるんです。そうすると他の植物を食べたりしない。そういう自然の農業をやりたくてね。苗を植えたり、種をバーッと巻いてほったらかしです。そこで育ったものを虫が食べて、虫を食べる鳥が糞をして、それがまた発芽してと自然に任せてます。

-- 素晴らしいですね。

のり子:落花生も植えたいです。私たち千葉からだから。こっちだとあまり見ないでしょ。

裕也:将来、土地を区画して都会の人に貸すようにしたいんです。毎日成長する様子を備え付けのカメラで確認できるようにして。

-- 農地のオーナー制みたいなものですね。

裕也:収穫できたら送ってあげるし、もしかしたら猪に全部食い尽くされることもあるかもしれない。でも月額数千円ならそれもいいじゃないですか。都会にいながら農業を体験できるみたいな。せっかく土地がある場所に移住したから、そういうこともやってみたい。

(慣れた手つきでコーヒーを淹れる裕也さん。地域の器で、お出ししてくれます。)

「地域をつなげる活動を、持続可能な仕事として成立させたい」

-- 千葉の商店街に比べたら、どうしても人通りは少ない地域ですがそこはどうですか。

のり子:常連さんにすごく支えられていて、あとはいろんな企画をするので。直近でやったのは…。

裕也:北海道。

のり子:うん、北海道からの移住者の集まり。やってみようということになって集まったんですよ。SNSで募集したら北海道出身で佐賀に移住された方が六人も。ジンギスカンの材料はちゃんと取り寄せました。ラム肉と、あとはやっぱりタレが違うんですよ。出身者の方のご指導のもとにジンギスカンとちゃんちゃん焼き、やりました。

裕也:どんどんこう、日本列島を下がっていきますよ。今度は東北出身者でやりたいですね。北海道出身者から見た佐賀県。佐賀県に移住してよかった点、困っていることなどいろんな意見があってとても楽しかったですよ。

-- なるほど、たしかに地域の中には、いろんな出身者がいますよね。そこが繋がる仕組みがあるのは心強いと思います。いいことされてますね!

のり子:裕也さんはこっちの学校の出身だしお友だちがいるんですよ。親戚もいるし。私はもうまるでいないから。

-- わかります。孤独を感じる時があります。

のり子:だから北海道出身の方も、久しぶりに北海道弁っていうんですか、しゃべり始めたらすごい盛り上がってね。

裕也:プロジェクターにGoogle Mapsを写してね。

のり子:私の家はここ、あ、すごく近い、って盛り上がってましたよ。

-- それは夜中まで盛り上がっちゃいますよね。

のり子:独身の若い子だったら、恋バナとかするわけですよね。

裕也:じゃあ合コンしてみる?ってなって、知り合いの企業の社長さんにお願いして、社員さんに声をかけてもらって5対5で合コン企画しました。

-- 嬉野みたいな小さな町の、小さな古民家カフェでやってらっしゃるのがまたいいですね。その場限りの集まりではなくて、ふらっとーヒーを飲みに来たら再会できるような距離感で。

裕也:イベントは毎月いろいろやっていこうと思っていて、月に1回は常連さん、ほぼ女子なんですけど、交流会をしています。直近ではやってみたい!の声から味噌玉を作るワークショップをしたりします。みんな、やりたいことがあるんですね。独立願望みたいなものがあって、いつかこういうお店を持ちたいとかね。じゃあ、ここに古民家カフェという場所があるから、擬似体験してみたらどうかな。小さくはじめてみるとどうかな。そういうふうに、いろんな経験ができるといいかなと思います。

(黄昏どき、あかりの灯るD-COFFEEの外観です。)

「移住したい人を、もっと移住しやすく」

-- 新しいつながりも生まれますね。

のり子:私たちはくっつけちゃうんですよ。意識して。新しく来た人がいると、まず聞くんです。どこからですか?鹿島ですか。じゃあこの常連さん知ってますか?みたいな。そうやって、仲間の中に入れていっちゃう。

裕也:とにかくね、どんどん進化していかないと飽きられちゃうから。うちらもそうだし、お客さんもそう。みんなで盛り上げていこうよ、みたいな路線でずっと行きたい。

のり子:嬉野だけじゃなく、鹿島だったらこの人、有田だったらこの人、伊万里だったらじゃああなた、いわたてさん。それぞれの地域でお世話してくれる人を紹介できるような、情報の発信源っていうか、ここに来たらいろんなこと知れる、そういうカフェにしたい。

-- そういう場所がひとつあるかないかで、地域って大きく違うと思います。では最後に、おふたりの今後の目標をおうかがいできますか。

のり子:たとえばそうね、私たち、NPOを立ち上げようとしていて…。

-- 終盤に来て長くなりそうな話が出ましたね。NPOですか。

のり子:空き家がね、意外とあるんですよ。

裕也:これからは空き家はどんどん増え続けますね。社会問題がとりざたされていますね。一方、嬉野市は旅館、ホテルなんかがいっぱいあるんだけど、鹿島のビジネスホテルは数も少ないしいつも満室で泊まるところがないということになっていてね。そこをマッチングするような活動ができないかと思って。田舎暮らしを体験できる民泊を通じて、気に入ったら購入して移住促進につながるような、そして地元の不動産屋さん、リフォーム業者さん、設備業者さん、清掃業者さんとも連携をとって地域貢献につながるような。
嬉野市は日帰り観光客も多くて観光滞在時間が短いと言われてますね。気軽にそして安価に宿泊できるような民泊ですね。食事は地元で、お風呂は日帰り温泉へ、家族で、仲間同士で、カップルで、田舎暮らしを体験してもらい観光客の滞在時間を増やしたい。空き家の家主と移住希望者が互いにメリットがある。そして田舎暮らしの良さをもっとアピールして観光収入の増加、移住促進につながるような活動ですね。

-- たしかに。試しに住んでみる。地域の人と触れ合ってみる。そういうワンクッションは、移住を検討している人にぜひお伝えしたい手順だったりしますね。

のり子:急にポーンと佐賀に来て1人でうまくやっていくのは難しいなって思います。強くないといけない。大体の時間は楽しいけど、知り合いがいなくてさみしいときはやっぱりあって、これをつなげられたらなって思っています。うちのカフェでは、初見で滞在時間が8時間くらいの子がいましたよ。

-- 都会のカフェだとなかなかありえない感じですね。

のり子:うちは長時間滞在型なので、みんな5時間くらいは普通。その間、私もしゃべるし常連さんも一緒にしゃべるし。

-- お話をするのが楽しく取材時間が100分を越えました。

のり子:あらごめんなさいね、おしゃべりが長すぎて。反省はしております。

-- 続きはD-COFFEEを直接訪問していただいて、のり子さん、裕也さんと、おしゃべりしていただけたらと思います。今日は長時間、お話を聞かせていただいてありがとうございました。またお邪魔します!

(せーので、お互いの好きなところを発表してもらいました。
のり子さん「やさしいところ!」裕也さん「小さいところ!」 )

Instagramアカウント:https://www.instagram.com/dcoffee0318/
Instagramアカウント(裕也さんのリノベ記録):https://www.instagram.com/hiromachi1965/

文章:いわたてただすけ
写真:いわたてただすけ

公開日:2025年03月31日
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