子どもが広く遊んで学べる、佐賀の環境が私たちにピッタリでした
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後藤 智宏さん
福岡県→上峰町
- 移住種別Iターン
- 移住の時期2023年
- お仕事飲食店経営(グリル食堂)
- 休日の過ごし方 子どもと、広々とした公園へ
佐賀県東部にある上峰町。博多へ車で60分。久留米市へ車で20分。佐賀市には車で30分。交通の便利さが際立つ立地で、近年は移住や工場・事業所の進出にも人気のエリアです。
福岡県から、上峰町へ。長女が小学校へと上がる直前のタイミングで移住した後藤さんは、料理人として長く勤めてきた経歴を活かして、ここ上峰町に、自宅一体の小さなグリル食堂『みつばちの休日』をオープンしました。なぜ、佐賀県に。オーナーになって、人生はどう変わったか。気になることを聞いてみました。
「子どもがのびのび全力で遊べる環境で選んだら佐賀県でした」
-- 後藤さんは、福岡県大野城市のご出身。佐賀県の上峰町とは車で40分かからないくらいの距離ですが、県境を越えてわざわざ移住してきた理由はなんだったのでしょうか。
後藤智宏さん(以下、後藤):福岡に住んでいた時も、よく子どもを連れて、佐賀県の公園に来ていました。福岡の公園は、面積が小さい中に人が密集してしまう。
-- 自分も東京出身ですが、たしかに都会の公園は混み合っていて、落ち着かない印象がありました。
後藤:そうそう、遊具を使ったり水遊びをするにも、少し待ち時間があったりしますよね。一方で、佐賀県の公園は広くて遊具が大きい。人の密度が少ないので、子どもがのびのびと遊べます。だから福岡に住んでいた頃から、休日のたびに片道40分かけてでも佐賀に遊びに来ることには価値があると感じていました。
-- それならいっそ、住んでしまおうと思われたんですね。佐賀県の中にもいろんな選択肢がありますが、上峰町に決めた理由はなんでしたか。
後藤:やっぱり子育てをする環境、ということでしょうか。公園が広くて、自然があって、学校やスーパーも近くて、ほどよい、ちょうどいいと思います。土地を探して初めて訪れた時に、ご近所の方々が「こんにちは!」と気持ちよく声をかけてくれたのは印象的でした。今でも庭で水をあげていると通学路を歩く小学生が「おはようございます!」と声をかけてくれます。
-- わかります。佐賀の人たちは親しみやすいですよね。
後藤:近所の方々がご自身の畑で獲れた野菜を差し入れてくださるんです。トマトとか、ジャガイモとか、スナップエンドウとか。いただいた野菜が料理に彩りを与えてくれます。
(住宅街にある小さなグリル食堂。庭も広いが空も広く、開放感のあるロケーションです。)
「肉そのものの味や香りを、最高の状態で提供したい」
-- 後藤さんはグリル食堂『みつばちの休日』を奥様とおふたりで経営されています。お仕事としては、お勤めから独立、ということでしょうか。
後藤:独立するのはちょっと迷ったんですが、もともと、ホテルや高級鉄板焼きのお店で長く働いていて、そういう飲食は大体が高級路線で一食の値段が高いです。だから敷居が高いイメージを持たれ、友人や知人も気軽に来れないという寂しさを感じたことはあります。特別な日の特別なお店と、普段づかいができるお店、ちょうどその中間のようなお店をやりたいと思いました。日常の中の、ちょっといい日、みたいな。
-- そんな日に、食べていただきたい料理はなんでしょうか。
後藤:肉料理です。ホテル、鉄板焼きと、肉料理をメインに扱ってきました。
-- 肉を知り尽くしてらっしゃる。
後藤:どうやったら柔らかくなるのか、どうやったら肉そのものの味や香を活かせるのかを常に考えています。料理を美味しく食べていただくソースの種類も100種類ほど頭の中に入っていて。
-- よくテレビなんかでは、肉を柔らかくするのにヨーグルトや赤ワインに漬けたりとかそういうことを紹介していますが。
後藤:僕はあまりやりません。そういう技法で肉の味が変わってしまうこともあるので。幸い、今までの経歴の中でいいお肉を卸してくれる方とのお付き合いがありましたので、スーパーでは買えないような質のいい肉や希少部位が手に入りやすいので、この店でしか食べられない味、料理を提供できていると思います。
-- どういうお客様が多いですか。
後藤:住宅街の中の隠れ家的なお店なので、ご近所の方がまずは多いですね。土地探しの時からずっと気にかけてくれていたので。また、テレビ取材に来ていただいた時はすごかったです。放送後の予約や問い合わせの電話が多くありました。テレビってすごいんですね。1年目の梅雨の時期は、すごく客足が落ち私の気持ちも落ちてしまったんですが、夏に取材があってからは、遠方からのお客様も増えて、おかげさまでここまでご縁が繋がってくれている状況です。
(前日から仕込む必要があり、要予約のローストビーフ丼。スタッフが美味しくいただきました。)
「自分たちのお店だから、自由自在に楽しめる」
-- 初めてのオーナー店、これまでと変わったこと、心境の変化などはありましたか。
後藤:大きいのは自分と妻の体力次第ということ。もう替えが効かないですもんね。休んでいても決まった給料が入る、ということがありません。働く時間は、雇われていた時と比較すると1.5倍くらいに増えました。
-- どんな仕事が増えましたか。
後藤:今までは料理のことだけ考えていればよかったのですけど、自分のお店だから経理もしなきゃいけない。仕入れも接客もしなければいけない。新しいメニュー、コースも、常に頭のどこかで考えています。結構頭を使います。
-- 通勤の時間自体なくなった。
後藤:そうです。食堂の2階は自宅なのでちょっと子どもの面倒を見たり、反対に子どもが下に降りてきて僕が仕込みをしているのを眺めて「それは何をしてるの?」と聞いてきたり。
-- たしかに、職場に子どもがいるという状況はなかなか少ないですよね。貴重な勉強!
後藤:妻はお菓子作りが好きで、趣味の延長から週に1回くらいマフィンを作って店頭で販売しています。あとは、マルシェの出店経験もあります。ありがたいことに少しずつ知られていって、今はマフィンの常連のお客様もいらっしゃいます。
-- マルシェはどのような感じで出店されているんですか。
後藤:カレーを100食程度、マフィンを50個程度用意し、食中毒対策と、フードロス対策として、カレーはお店で作って真空パックをしてマルシェの現場では温めてごはんにかけるだけ、マフィンは個包装にして販売しています。
-- せっかく真空パックするなら、通販でも活用できそうですね。
後藤:自家製スープの評判もいいので、いずれ通販などでも出していけたらなと思っています。
-- 自分たちのお店だから、全部自分たちで決められるから、料理の楽しみ方も膨らんでいる感じがすごくします。
(マルシェでもお店でも人気の海老カレー。スタッフが美味しくいただきました。)
「子どもたちにとっても移住、地域のご好意にも丁寧に接していきたい」
-- せっかく奥様(真由美様)もいらっしゃるので少しお話を伺いたいんですけど、はじめてお店をやってみて、どういった感情を今はお持ちでしょうか。
真由美様(以下、真由美):はい、私は接客を担当していますが、もともと喋るのは得意ではないからこそ丁寧に、慎重にやりたいなということは意識しています。
-- それはすごくわかります。移住者だから意図せず注目されてしまうこともあって、自分は自分で選んだからいいけど、できるだけ家族には平穏でいてほしいというのは共感します。
真由美:店内業務と家庭の事を両立させながら、合間で趣味の焼菓子を作って販売しているんですが、以前から興味のあった「カフェをやりたい」「お菓子を作りたい」が小さな形ですが、実現したのは素直に嬉しいんです。住宅兼にするにあたって、うちは女の子2人なので学校に近いことや、周りには生活必需品が揃うお店もたくさんあるので、お店をするにも子育てをするにしてもちょうどよい場所なんじゃないかなと思いました。春は近所に桜も咲くと聞いて。
-- 土地探しも楽しいし、家づくりも楽しいですよね。
真由美:最初は平屋でお店の奥に自宅をつなげた形にしたいと思っていたんですが、敷地面積が広いと予算的に多くかかるよって言われて2階建てにすることになって。
-- そう、家を建てるって、少しずつ削っていく作業なんですよね!
真由美:でも子ども部屋を小さくても2つ用意することができて。子どもたちも自分の部屋があるということが嬉しいようで。
「小さな町の小さな食堂、だからこそ時代の変化には前向きに対応していきたい」
-- 最後に、今後の目標や、したいことがあれば教えてください。
後藤:自分は新しいことをやりたくなる性分なので、低温調理器やコンベンションオーブン(※)を利用して色んな料理を生み出したくなります。その時々で、旬も変わればトレンドも変わっていきますから、常に新しい味わいの料理を更新し続けたいと思っています。
-- たしかに、同じことを続けるリスク、というのもありますよね。
後藤:ホテル時代に週末に多くて1000枚以上の肉を焼き続けている時期がありました。あれがあっての今、とは思いますが、やっぱり毎日同じことを続けていたら変化を求めたくなって新しいことに挑戦したくなりますね。
-- 独立されるのがあっていたのかもしれませんね。地域に対してはどうでしょうか。先ほどからよくしていただいていると聞いておりますが。
後藤:本当に、地域の方にも役場の方にも、移住する前、お店を準備している時、実際にオープンしてからもよく声をかけてもらい、あたたかく接していただいています。また、新たにお友達を連れてきてくれたりととてもありがたいです。
-- 地域ぐるみで支えてくれている感がありますね。
後藤:お店を通した交流だったり、『みつばちの休日』を見て他の飲食店さんが地域に出店してくれるようになったら一緒に子どものためのイベントを考えるとか、ですね。そういうことで貢献していけたらと思います。あとはやっぱり、家庭のこともしっかりと、ですね。作業をしていると、子どもたちが「何をしているの?」とか調理器具に興味を持ったりと、最近では簡単なものを一緒に作りたがります。子どもたちが広く遊べる、広く学べるという環境を大切にしていきたいです。
-- 後藤さん、今日はありがとうございました!
(よく陽が差し込む明るい店内。駐車場は8台のみ停められることもあり隠れ家的に落ち着けるお店です。)
※低温調理器:食材をじっくりと加熱することで、栄養素を壊さずに柔らかくジューシーに仕上げる調理方法のこと。
※コンベンションオーブン:熱風を循環させることで食材に均一に火を通す調理器具。中はジューシーに、外側はカリッとした食感に仕上げやすい。
インタビューを終えて
移住のインタビューをすると、どうしても個人の気持ちにフォーカスしすぎてしまうことがあります。暮らしの場所を地域に移すことで、実現できなかった夢が叶ったり、自分らしい働きやすさを見つけることも素晴らしいことです。
ただ今回は、まず家族。そして、子どもの気持ち。その安定があってこその移住だなと。
ご夫婦おふたりの優しい気持ちに触れて再確認できたインタビューでした。
お料理、本当に美味しかったです。お近くの方も、そうでない方も、ぜひご訪問ください。また、このお店に通いたくて近くに移住する…なんてこともアリかもしれません。
みつばちの休日
Instagram https://www.instagram.com/mitsubachi_no_kyujitsu/
文章:いわたてただすけ
写真:川浪勇太