フルリモート女子は、移住者同士が「楽しい」を共有できるチームを作りたい。
畑石 望さん
東京都(群馬県出身)→伊万里市
- 移住種別Iターン
- 移住の時期2021年
- お仕事フルリモート(人材会社勤務)
- 好きなもの 甘いもの
佐賀県西部の焼き物の街、伊万里へ移住を考えたら。今、伊万里の暮らし情報をもっとも活発に発信している畑石望さんのTwitterとnoteを、フォローしておくのがオススメです。地元・群馬から就職で東京へ。そして結婚を機に東京から佐賀へ。日本列島を横断するかの移動距離でたどり着いたのは、「東京の仕事をフルリモートで。暮らしはホッとする伊万里で。」という、「私らしい」カスタムメードのライフスタイルでした。
まだこの地域では事例の少ない、その働きぶり、暮らしぶり。気になるところを聞いてみました。
仕事の合間に癒される、山と空のピクチャーウインドウ。
――フルリモートってどういうことですか?!
畑石望さん (以下、畑石):東京の人材会社に所属しています。フルリモートの完全在宅。伊万里に引っ越した次の日にはいつもどおりノートPCの電源をつけて、いつものリモート会議で「佐賀からでーす!」と喋っていました。PCとヘッドホンさえあれば仕事ができちゃう。東京で働いていたときと何も変わっていません。お給料も変わらず入金のタイミングも今までと同じ。引っ越しでなにかと物入りだったので、そこはすごく助かりました。変わったこと、と言えば外の環境ですね。仕事の合間に窓の外の景色を見ると、目の前に迫る山、空。「あぁっ…!」と声が出ます。仕事環境に自然を取り入れられることが嬉しいです。川に足をつけて仕事をする、あれもやってみたいです。
――もともとフルリモートできる会社に所属していたのですか。それともフルリモートできる会社に転職しましたか。
畑石:引越しの3、4か月前に東京で転職活動をしました。佐賀に移住しても続けられる仕事を前提にしていたので、条件は「どこに住んでいても続けられるフルリモートの仕事」一択。地方だとしたい仕事を選べないのではないか、キャリアにブランクができるのではないか、給与水準が下がるのではないか、などは地方移住を目前にしての大きな不安でした。でも、都会に本社がある会社に就職できれば、そういった不安は一度に解消できるように思います。
――移住による転職にもこういう選択肢が増えてきましたね。フルリモートの仕事はどうやって探しましたか。
畑石:ちょうどコロナ禍でリモートワークが注目されている時期だったので求人サイトを見てみると「リモート」や「在宅」の文字はたくさん見かけました。でも、いざ応募してみると「暫定的なリモートを推奨している状態なので今後はオフィス勤務に戻る可能性が高い」という会社さんがほとんど。いざ、面接で「佐賀に移住します」と言うと「ふーん佐賀………佐賀?!」と驚かれて、さすがに佐賀となると厳しいという反応でした。いつでも東京に通える関東圏なら、という意味での「リモート」だったんでしょうね。
――それなら募集記事にどの程度のリモートか書いておいてほしいですね!
畑石:面接で初めて佐賀移住の話をすると、向こうも「最初から言っておいてよ」となるし、私の方でも「最初から言っておいてよ」と思うことは何度かありました。面接のお時間を空けていただいて、こういうすれ違いがあるのも申し訳ないので、途中からエントリーシートの備考欄に「私はこれこれこういう理由で佐賀へと移住します、それでもよろしいでしょうか」と書いておいて、それでもOKなところと出会えて今、伊万里の素晴らしい職場環境で働くことができています。
――フルリモート未経験者のために、いいところと悪いところ教えてください。まず悪いところから。
畑石:「察してもらえる」というのはなくなりますね。オフィスで一緒に働いていたら伝わっていた「あいつ忙しそうだな」というのがリモートだと全然わからない。だからグループチャットに「私今、めっちゃ忙しいです」「電話できない状態です」「ここわかりません詰まってます」というのを自分から小まめに投げています。あとは…自分はもともと人事関係の仕事をしたくて、人と関わることが大好きなんです。オフィスで働いていた時は、インターンに来ていた18、19歳のコたちにアメちゃんをあげたりしていました。「おつかれっ!」ってアメをあげるだけで、めっちゃ嬉しそうな顔をするんですよ。そういう顔はもう見られないですね。同僚に「仕事帰りに一杯飲みに行こうぜ!」と言うこともできなくなったので、そこもちょっとさみしいです。
――いいところはどうでしょう。
畑石:仕事部屋のドアを開けるとビルディング…じゃなくなったことがまずひとつ。もうひとつ気に入っているのが「いろんな人がいろんなスタイルで働ける」こと。そこがいいなと。私の会社には、時短で働くママさんもいっぱいいますし、移住や介護など、事情がある人も働くことをあきらめなくてもいい環境があります。また、車椅子で外出することが難しい方や免疫の関係で頻繁に外出できない方も、画面を通して一緒にお仕事しています。多様な背景をもつ方と働けるようになったことは、私にとっては新しい体験でした。
――地域でリモートするからと言って、人とのつながりが必ずしも狭まるわけではないと言うことですね!
地元・群馬と同じ立ち位置の佐賀に親近感を覚えました。
――移住して1年ちょっと、佐賀や伊万里にはどんな印象をもっていますか。
畑石:印象は「のどか」。私、出身が群馬なんです。おばあちゃんちは俗に言う「限界集落」。そういうところを知っているから「いやお店あるやん」「チャリでどこでも行けるやん」「佐賀・伊万里はイケてますよ」と思いました。群馬って、テレビでもよくいじられるように関東の中で言う佐賀みたいな、同じ立ち位置なんですよ。だから、勝手に親近感を感じています。夫になる人と一緒に旅行に来たのが3、4年前です。そのときが私にとっての九州初上陸で、福岡の隣なんだ、伊万里焼って佐賀なんだ。って、移動手段から歴史から、いろいろ夢中になって調べました。
――驚いたことはありましたか。
畑石:伊万里に来てめっちゃびっくりしたのは、街の中に焼き物がおいてあること。湯呑みひとつで1万円するものだってあるのに百万円単位の壺が街の中に置いてある。「どうなってるの、平和すぎん?」って思いました。
――地域では世間が狭くて、いい噂も悪い噂も、すぐ広まってしまう。そこが苦手に感じるという人もいるかもしれませんが、どうでしたか。
畑石:私的にはそれがすごく、居心地の良さだなと思います。東京だとカフェの常連になっても適度な距離感が残るものだと思うんですけど、伊万里では一度仲良くなると、すごく心の距離が近い。そういうのが私は好きだし、ありがたいです。フルリモートの仕事をしていると、日常生活では生身の人との接点がまるでないので、どうしても「さみしい」気持ちがあります。だから休みの日、オフの日に、街の人たちとつながっている、受け入れられている実感があると心地よく感じます。
何気ない投稿が、移住したい人の人生を変える言葉になる可能性もある。
――望さんは移住して以来、Twitterは日に2、3回、noteは月に1回と、移住者目線での情報発信をかなりのペースで投稿していますね。何を目指して情報発信しているのでしょうか。
畑石:きっかけは、移住のもろもろを書き留めておけたらいいなという軽い気持ちです。誰かのちょっとした呟き、ネットに落ちているささいな情報が、移住を考えている人の役に立つことは私自身の実体験として知っていました。だから、その書き込みがおもしろいかどうか、役立つかどうかを自分自身で判断してしまわず、移住者として思ったこと体験したことはみんなとりあえず発信していくことにしています。後から佐賀や伊万里に来る人たちの、何か足しになったらいいな。仕事として移住を支援している方々もいらっしゃいますけど、私はそうじゃない目線から何か伝えられたらいいな。そんなことを考えています。
――百貨店ラヂオの中では、イベントやります、という発信は多いけれど、そのイベントに参加してこう感じました、というようなレポートや体験談はほとんどないと発言していらっしゃいました。伊万里の移住者代表のように着々と情報発信を続けている望さんですが、今後移住者として挑戦していきたいことはありますか。
畑石:移住者へのサポート環境が作れたらと思っています。サポートというと大それたように聞こえてしまうのですが、もっと気軽な集いのようなものができたら、とは思います。昔からの友だちと離れてさみしい方。買い物や病院の情報がうまく見つけれず困っている方。そういう 方々の移住先での暮らしに寄り添ったり、プライベートな相談でも気軽にし合える ようなチームが地域にひとつあると、移住者にとってもっと住みやすく、入ってきやすい街になっていくと思います。私自身が、街の人たちには本当によくしてもらっていますし、移住の支援金をいただいたりもしています。リモートで東京の仕事をしているとは言っても、ただ住んでいるだけ、納税しているだけではなくて、何かしらで貢献できたらいいなと考えています。私は楽しいこと、お祭りごと大好きなので、どこにでも顔を出して情報発信していきたいと思います。
――今日はどうもありがとうございました!
インタビューを終えて
フルリモートという生き方、働き方には、生きる場所を1つには限定しないという特徴があります。移住するからと言って、何かをあきらめなきゃいけないということはなくて、むしろもっと身軽に、自分らしくなっていく。読者のみなさんにも、それが全然難しくない普通のことなんだと伝わればいいなと思います。
筆者は個人的に、伊万里Iターン移住者の会を望さんと月一で開催しています。すでに移住して少しさみしさを感じている人も、これから移住したいけど不安が多い方も。ひょっこり顔を出して、つながってもらえたらなと思います。
文章:いわたてただすけ
写真:野田尚之