人と人を繋ぐ、100個の機会を作りたい。

横道 亨さん

横道 亨さん

東京都唐津市

  • 移住種別Iターン
  • 移住の時期2019年
  • お仕事厳木町の集落支援員(市町村職員とも連携し、集落への「目配り」として、集落の巡回、状況把握等を行う仕事)
  • 挑戦したいこと 地域の人と外の人の交流機会を作る

東京都出身で4年前に唐津市厳木町に移住してきた横道さんは、集落支援員として地域の人と密接に関わり地域の課題解決に取り組んだり、高校生の居場所を作ったりしています。いつお話を伺ってもキラキラと新しいことにチャレンジし続ける横道さんが、今の仕事をしようと思ったきっかけや、今後叶えたい目標などを聞いてみました。

「厳木のために」という強い気持ちが今の仕事に繋がりました

-- 東京から厳木に移住してきたきっかけを教えてください。

横道亨さん(以下、横道):妻が佐賀の多久出身で、妻のお母さんが厳木の人で、もともと佐賀に帰ろうってずっと言っていました。最終的にきっかけになったのは、東京で子どもを預けられる保育園がなくなり待機児童になってしまったことです。それでこのタイミングだなと思い決断しました。

-- 最初は、東京から福岡の支店に異動し人材キャリアサービスの会社で働いていたそうですが、転職を考えたのはなぜですか。

横道:最初の2年間は、福岡県の天神まで往復3時間半かけて通っていましたが、体力的にも厳しくなってきましたし、せっかく佐賀に来たのに福岡の発展のために仕事をしているっていう違和感がずっとありました。そこで、佐賀や厳木のためにできる仕事がないかを探し始めました。

-- 「佐賀や厳木のために」と考えた末、辿り着いたのが「集落支援員」の仕事だったのでしょうか。

横道:移住すると決めた時、厳木について調べていたら「きゅうらぎデザイン」という任意団体を見つけました。地域作りを頑張っている団体だなと思い、東京にいる頃から代表の方とやりとりをしていました。転職を考え始めたタイミングで、「東京からの移住者で、厳木のために何かしたいと思ってくれてる人がいる」とその代表者の方から活性化協議会(※)に誘っていただきました。定期的に参加するようになってから、当時の厳木役場の課長に「集落支援員に興味はないか」と声をかけてもらい転職を決断しました。年収は3分の1ぐらいになりましたけど。
(※活性化協議会:集落の代表者が集まり、地域の特性を活かした農業振興を基軸とした町づくりを考える会)

-- 集落支援員に着任した当初はどんな活動をしていましたか。

横道:最初に声をかけてくれた当時の課長が、かなり理解をしてくれていました。「横道くんが来てくれるなら、フリーミッションで持っているものを厳木のために活かしてください」という形だったので、いろんな地区を回って、住民にヒアリングをして、地域の課題を探しました。

-- どんなところに活動の楽しみがあったのでしょうか。

横道:かっちり決まっていなくて、新しく開拓するっていうことにとてもワクワクしています。前職で営業をやっててよかったなって本当に思ったんですけど、初めましての状態から、1時間もあれば皆さんと打ち解けるんじゃないかな。今でもどんな人に出会えるのか、何を見つけられるのかと日々楽しんでいます。

(厳木についてお話ししてくれる横道さんは、本当に笑顔でいっぱいでした)

高校生と繋がる第3の居場所「彩り」

-- 現在、古民家を改修して交流スペースを運営されていると伺いました。どんな場所ですか。

横道:「彩り(いろどり)」という名前で交流スペースを運営しています。主な活動内容としては、月1回のこども食堂、厳木高校生の放課後の居場所、修学旅行生の民泊受け入れ、いなか暮らしのお試し宿の4つです。

-- 「彩り」を作ろうと思ったきっかけはありましたか。

横道:最初のきっかけは、高校生が放課後にちょっと立ち寄れる場所があったらいいなと思ったからです。厳木高校の学生の9割が電車を使って通学していますが、1時間に1本しか電車がないので授業が終わってもすぐ帰れるわけではありません。雨の日も雪の日も屋根がないところで待っている様子や、地べたに座っている子を見た時に、 何かしてあげられることはないのかなと考えました。

-- 「彩り」ができた当初、高校生たちの反応はいかがでしたか。最初から高校生たちに活用してもらえたのでしょうか。

横道:最初は正直、難しかったです。 高校生に第3の居場所として活用してもらいたいと、厳木高校の校長先生たちと半年間話し合いを続けました。それでやっと理解を得るようになって、最初は生徒会の子たちに紹介して活用してもらいました。最近では10人ほど利用してくれるようになり、放課後の居場所として使ってもらうだけでなく、厳木駅周辺の賑わいづくりやこども食堂のチラシを一緒に作るなど、町づくりにも参加してもらっています。

(交流スペース「彩り」で高校生たちと活動している様子です)

-- 高校生と一緒に活動を始めて、新しい発見はありましたか。

横道:厳木高校の学生は、自分の進路を定めている子が多いです。生徒会で初めてあったとある学生さんも、農業大学に行って、2年したら佐賀大学の農学部に編入して、生物研究をしたいとかまで決まっていて。厳木を出てしまうのは悲しいけど、見送るまでに仲良くなって、またいつでも戻ってきてねと言える人を1人でも多く作りたいです。厳木に帰ってきてくれた時の受け皿というのも「彩り」の役割かなと今は考えています。

(お試しいなか暮らし体験住宅『彩り』の詳細:https://irodori-community.my.canva.site

厳木の宝を外の人と地域の人が繋がれる場所へと再生したい

-- 先日までクラウドファンディングをされていましたね。どんなプロジェクトでしょうか。

横道:厳木にある旧酒蔵の建物や茅葺屋根古民家を修繕して、昔の暮らしと営みが体験できる複合施設として再生させようというプロジェクトです。まずは、「角打ちBAR」を作って、地域の人と外の人が交流できる場所を作りたいと思っています。

-- このプロジェクトを企画した理由を教えてください。

横道:旧酒蔵を所有する方から、「もう自分たちでは維持管理できないが、建築技術的に今から新しく作れる建物じゃないのでどうにか残したい」と相談があったのがきっかけです。これと同じ建物が別の地域にあっても興味はなかったかもしれないですが、厳木は自分や家族が、少なくとも子どもが高校を卒業する10年先までは暮らす町だと思うので、なんとかしたいと思いました。そこで、歴史的・建築的財産として残すだけでなく、町の宝として地域で活用する必要があると考えました。

-- 建物の価値だけでなく、もう1つ宝を見つけたとか。

横道:建物のオーナーの方の仕事が興味深いものでした。彫金(ジュエリーや昔の日本刀を作る技術)の仕事をされているのですが、日本で絶滅危惧種(本人談)と言われるぐらいの人数しかいない職業だそうです。前職で仕事を紹介する業務に携わっていたこともあって、日本の伝統技術の一つとしてこうした技術は残さないといけないと思いました。

-- 資金集めにクラウドファンディングを選んだ理由はありますか。

横道:やっぱりPRを兼ねられるので。資金が集まること以上に、輪が広がっていくことを今回も実感できました。佐賀大学の教授が声をかけてくださり、今後、角打ちBARの内装などの空間デザインを大学生に手伝ってもらい一緒に取り組んでいく予定です。これが1番嬉しかったですし、“蔵”ウドファンディング(※)をやってよかったと思ったことですね。
(※蔵ウドファンディング:旧酒蔵のリノベーションを目的としたクラウドファンディングの造語)

-- 今後、どんな場所にしたいですか。

横道:地域の人がいつもそこにいる状態を作り、外の人と交流できる場所にしたいです。厳木には地域の人と外の人が気軽に交流できる場所がないので、ここがその役割を担っていけたらと思います。外の人が厳木に来て、「厳木っていいね」って言ってくれるだけでいいんです。その声を地域の人に届けられる場所にもしていきたいです。

(横道さんとオーナーさん。普段からたくさん会話をして信頼関係を築いてきたんだなと感じました)

地域の人がやりたいことに挑戦できる100個の機会作り

-- 日々の活動の中でたくさんの方とお話しされていると思います。お話を聞く上で大切にしていることはありますか。

横道:前職の影響なのですけど、何歳で何してたかとか、仕事の変遷を必ず聞いてしまいます。そんなにかしこまってるわけではないですけど、なんか気づいたら聞いてて。高校生に対しても、とにかく質問します。質問していくことでその人のマイルストーンや人生の転機が見えてきて、その人がどう考えているのかを知れる大切な時間だと思っています。

-- 活動の中での軸や、今目指していることを教えてください。

横道:今行っているプロジェクトの中で絶対やりたいと思っているのは、100個の機会を作ることです。ある人は、角打ちBARの運営のスタッフとして働くことなのかもしれないし、また別の人にとっては社会との繋がりを求めてボランティアをすることなのかもしれないし、そうした雇用に限らないバイト・ボランティア・プロボノなど、いろんな機会を100個作りたいと思っています。

-- 「100個の機会を作りたい」、何をきっかけにそう考えるようになったのでしょうか。

横道:過疎地域と言われる厳木に住むようになり、孤独死の問題や独居老人が身近になりました。その中で人は役割を失うと、社会の中で生きる意味を喪失するのだろうと感じました。今、地域の人たちの心の中で眠っている本当はやりたかったことや挑戦してみたかったことを、お話しながら一緒に考えています。想いはそのままにせず、やりたかったことに挑戦できるように人と役割を繋げていきたいです。そして、最終的には「100個の機会」として何か形に残して、地域の人が厳木に住み続けてよかったなって思ってもらえるようになると嬉しいです。

-- 本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

地域の人の心の奥に眠る声を聞きだして、その人のやってみたいことに一緒に取り組んでいく。前職の経験を活かして、1歩ずつ丁寧に地域の人とコミュニケーションを図ってきた横道さんだから、自然と人が集まり、そこが居場所になっているんだろうなと思います。
たくさんの「厳木っていいね」が横道さんや、厳木町の皆さんのもとに届きますように。

先日クラウドファンディングが終了した、「角打ちBARを作るプロジェクト」はプレオープンに向けて準備中とのことです。インスタグラムから詳しい内容の確認ができますので、お酒を飲みながら厳木町の方との会話を楽しむのはいかがでしょうか。
@https://instagram.com/kyuragi_hakusuiso_pjt
こちらからぜひ横道さんの活動を覗いてみてください。

文章:山口真奈
写真:野田尚之

公開日:2023年12月26日
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